がん遺伝子治療
がん細胞による血管新生を止めるがん遺伝子治療
遺伝子治療は、ADA欠損症の補修治療、血管新生を促すための療法からはじまり、がんに対する治療が最初ではなかった。
遺伝子治療とは、治療に有効な遺伝子を外部から体内に送達し、病的な状態の改善をめざす治療のことであり、代表的なものとして次の三種類がある。
- 先天的に不足している遺伝子を補充(ADA欠損症)
- 血管の新生を促す遺伝子を投与(閉塞性動脈硬化症、狭心症、心筋梗塞)
- 疾患の原因遺伝子の働きを抑える人工遺伝子の投与(がん、AIDS)
細胞内で核酸の代謝に関わる酵素ADAが先天的に欠損していると重篤な免疫不全の原因になり、その症状がADA欠損症(重症複合免疫不全症)である。生まれつきADAを合成できないとリンパ球が減少して免疫不全となる。
ADA酵素が合成できなければ、外部から補充すればよいわけだが、究極的にはADA合成遺伝子の欠損がその病因であるため、欠損している遺伝子を補充する遺伝子治療が研究対象となった。
手法としてはウイルスをベクター(運び屋)として、患者のリンパ球にADA合成遺伝子を組み込み、体内に戻すというものである。血管新生の過程は、いくつかのステージに分けられる。血管新生を促進する作用を持った増殖因子である血管内皮増殖因子は、がん細胞などによっても産生され、血管新生というと、一般にはむしろがんとの関係でこそ、よく知られている。
血管内皮増殖因子は、内皮細胞膜上に発現している血管内皮細胞増殖因子受容体に結合し、この受容体の刺激により活性化された内皮細胞は、タンパク質分解酵素の一種であるマトリックスメタロプロテアーゼを放出するなどのことを経て、血管が新生される。
血管新生を促す遺伝子治療は、血管を新生することによって、新たな血液の通り道を作り閉塞性動脈硬化症や狭心症、心筋梗塞などを改善するというものであり、血管を新生させることが鍵となる治療法である。
それに対して、がんによる血管新生は、がん細胞に栄養を送るための血管を新たに作ることである。
細胞死することなくどんどん増殖するがん細胞は、血管を新生しないと栄養不足に陥るため、がん細胞増殖と血管新生が並行して行われる。そのため、なんらかの方法により、がん細胞による血管新生を止めることができれば、兵糧攻めのようなかたちで、がん細胞の増殖を止め、ひいてはがん細胞の消滅にもつながる。