根治が困難なスキルス胃ガンの治療法はどのようなものがあるのでしょうか。大きく分けると3つあります。手術療法と化学療法、免疫療法、そしてCDC6 shRNA治療です。
スキルス胃ガンに限らず、すべてのガンを取り除くことができるのであれば、それを数時間で実現することができる外科手術が、ガンを治癒させる方法としては最も確実かつ信頼できる治療法です。ただし、その際、ガンを一気にすべて(ガン細胞を1個も残さずに)取り除くことが前提となります。
進行が速いスキルス胃ガンはそのようなガンの除去が不可能な状態まで進行していることが多く、手術前の検査で完全切除可能と判断され、根治的手術を行った手ごたえがあったのに、潜在的に広がっていたガンが後から再発してくることも多々あります。
すなわちスキルス胃ガン患者の手術による治癒率は20%前後とされています。
そして、根治手術の際の切除範囲は、通常の胃ガンの手術より広範囲にならざるを得ず、すべての胃の切除と関連リンパ節に転移することの多い脾臓も同時に切除することが一般的です。
また腹膜に転移した場合に、腹膜を積極的に切除する手法も開発されており、外科的治療も進化してはいますが、手術治療の効果が期待できない進行例が多いのも事実です。
手術が意味をもつのは、繰り返しになりますが、その治療行為により、すべてのガン細胞が一気に取り除かれる場合です。
転移した部分が取り除けない場合に、胃の病変のみを切除する方法は治療としての意義は低いのですが、ガンにより胃の内腔が狭くなり食べ物が通過できない状況や、胃の痛み・出血を取り除くために行われることがあります。
腹腔全体に播種が広がっていたり腹水があるとき、リンパ節の遠隔転移があるときなどは手術ではなく化学療法が選択されることが標準的です。また、特に腹水に対しては腹腔内化学療法が行われることも多くなってきました。
しかし、化学療法はご存じのように副作用が大きく、体の健常な部分にもダメージが及ぶため、副作用の発生程度に比べて有効な治療効果が得られているか、その見極めが非常に重要になります。化学療法によって免疫力が低下するため逆にガンの進行を進めることになる場合があるからです。
抗ガン剤を用いた化学療法は、がんの増殖を抑え、がん細胞を破壊する治療方で、点滴、注射、内服薬で使用します。
抗ガン剤というのは、ガン細胞が活発に増殖するのを攻撃するため、ガン細胞だけでなく、細胞が活発に増殖することで機能を維持している組織や器官、血液を作る骨随、胃腸の粘膜、生殖器、毛髪なども影響を受けます。その結果、食欲不振、口内炎、吐き気、下痢、脱毛、発熱、だるさ、皮膚のトラブル、貧血などが起こることがあります。
最近は、このような副作用を抑える薬も開発されています。
そのような化学療法の欠点を補うために体に負担のない治療として実施されているのが免疫療法です。 免疫作用を利用して、ガンの増殖を抑制する方法ですが、治療効果はまだ非常に弱いと言わざるを得ません。養子免疫療法や樹状細胞療法など新しい免疫療法が発達してきていますが治療効果は小さいと言わざるを得ません。
このようにスキルス胃ガンは残念ながら良好な治療成績が得られず、根治が極めて難しい病態です。
CDC6shRNA治療は、スキルス胃ガンの治療において、化学療法のような副作用がなくかつ免疫療法よりも大きな治療効果を期待できるものとして有望視しています。
現にスキルス胃ガンと診断されCDC6 shRNA治療により病変が完全に消失し現在も再発なく日常生活を送られている症例や、切除不能と判断されたスキルス胃ガンがCDC6 shRNA治療により病変が縮小し、その後根治切除が可能となった症例が報告されています。
CDC6 shRNA治療はこのようにスキルス胃ガンに著効例が見られますが、乳ガンで治療効果が確認された例も増えています。また、膵臓ガンにも治療効果が期待できるという声が臨床現場から上がってきています。
CDC6 shRNA治療は、RNA干渉という先端技術により、ガンに特異的に大量に発生するCDC6タンパクを除去することを目指した治療法です。CDC6タンパクは、ガンの特異的な性質である無限増殖能や自殺回避能力を担っている可能性が強く、それを除去することにより、ガンの増殖が止まりそのまま老化するか、自殺して消失することが期待されます。
まだ十分なエビデンスが得られている治療法ではありませんが100人程度のさまざまな進行ガンおよび末期ガン患者さんの治療経過を参考にすると、日常生活の改善や延命効果は得られている印象があります。そして、前述のごとく難治性のガンで治癒例も認めています。手術や化学療法などの標準治療の適用がなく緩和ケアしか選択がないと言われた方や、化学療法の副作用が強すぎて治療が継続できない方、そして進行ガンに対して手術が可能だったけれども将来の再発を抑えたい方などには、積極的に提案したい治療法の一つです。
治療の実際は、点滴、局所注射、またはカテーテル治療により病変部にCDC6 shRNAを送達します。一時的に38度を超える熱発が発生しますが、15~30分で消失し、それ以外特に大きな副作用はありません。通院治療のできる方に治療を実施できます。通常は1~2週間ごとの5回の施術を一つのクールとして治療プランを立てていきます。