乳がんの治療法
最善の治療を受けるために
乳がんの治療は、手術などの外科治療、ホルモン剤、抗がん剤などの薬物治療、放射線治療などが標準治療です。
治療方針を決める場合、以前は、担当医や治療機関で治療法を決めることが少なくありませんでしたが、世界中の研究成果を集め、有効性と安全性を考慮し、最善の治療として合意されたものが標準治療です。
がんの進行度、性質などによって最適に治療法は異なります。
最善の治療を受けるために、病気と治療法をよく理解し、納得し、方針を決めることが大切です。
インフォームド・コンセント
患者が医師から説明を受け、理解したうえで同意することをいいます。
・話をよく聞いてくれる
・共感してくる
・わかりやすく説明してくれる
・希望を聞いてくれる
などの条件を満たした信頼できる医師のもとで、必要な説明(目的、内容、リスク、時間、費用)を受け、希望を伝え、納得した上で方針を決めることが大切です。
外科治療
1 乳房部分切除術
しこりとその周辺を切除する方法で、乳房温存手術といわれます。
がんの広がりが3~4cm以下、ステージが0期~IIA期、多発性ではないという場合の治療です。
・乳房扇状切除術
扇状に、がん、周辺組織を切除します。切除範囲が大きく、乳房の変形があります。
・乳房円状部分切除術
がんを中心に円状にがん、周辺組織を切除します。切除範囲が狭く、乳房の変形も少なくてすみます。
手術後、再発を防ぐため、放射線治療と組み合わせて行います。
2 単純乳房切除術
がんのできた乳房をすべて切除する手術する方法で、再発リスクが少なく、乳房再建術を行うことで、乳房を取り戻すこともできます。
初発のがん、大きさが3cm以上、ステージIIIA期まで、ステージIIA期以下で広範囲に浸潤している場合、乳房内にとどまっている非浸潤がんの場合の治療法です。
乳房再建術は、乳房切除術と同時に行う一期再建と間を置いて行う二期再建があります。
3 腋窩リンパ節郭清
リンバ節に転移がある場合、乳がんの切除と、わきの下のリンパ節を切除します。
目的は、全身への転移を防ぐことです。
手術を行ったうちの、10~20%くらいの頻度で、腕や手がむくんだり、腕があがりにくくなったりする場合があります。
4 センチネルリンパ節生検
リンパ節への転移を調べる方法です。
センチネルリンパ節とは見張り番リンパ節という意味で、最初に転移した乳腺のリンパ節のことです。このリンパ節に転移がなければ、そのほかのリンパ節郭清はする必要がないという判断ができます。放射線同位元素や色素を注入し、見つけます。センチネルリンパ節生検は腋窩リンパ節郭清を行わなくてもよい可能性がある患者さんを選ぶ手段として期待されています。
ホルモン療法
乳がんの6~7割が女性ホルモンによってがん細胞が増殖するホルモン受容体が陽性のタイプです。ホルモン受容体が陽性がどうかは、手術や針生検で切除した組織検査でわかります。女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの受容体を検査し、陽性であればホルモン療法の適応となります。
ホルモン療法に用いる薬は、抗エストロゲン剤、アロマターゼ阻害剤、黄体ホルモン分泌刺激ホルモン抑制剤などがあります。
閉経前と閉経後では、治療に用いる薬などが変わります。
抗エストロゲン剤は、女性ホルモンのエストロゲン受容体への結合を阻止し、がん細胞が増殖しないようにします。
閉経前後、どちらでも使われます。
アロマターゼ阻害剤は、アロマターゼの働きを抑え、閉経後の女性において女性ホルモンの産生を抑えます。
黄体ホルモン分泌刺激ホルモン抑制剤は閉経前の卵巣からの女性ホルモンの分泌を抑えます。
ホルモン療法の副作用は軽いのですが、ホットホットフラッシュと呼ばれるほてりやのぼせが出ることがあります。また、抗エストロゲン剤のタモキシフェンの長期間使用で、子宮がんや血栓症のリスクが、選択的アロマターゼ阻害剤の場合には骨粗鬆症のリスクがあります。
化学療法(抗がん剤)
抗がん剤を使って、がん細胞の分裂を抑え、破壊する治療法です。
全身に広がっている可能性のある微小転移を転移、再発を予防する、手術のむずかしい進行性がんや転移がんの進行を遅らせるなどの目的で行われます。
化学療法は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を与えてしまうため、骨髄細胞、消化管の粘膜細胞、毛根細胞などに影響し、吐き気、脱毛、下痢、口内炎、白血球、血小板の減少などの副作用が見られます。
最近では、副作用のつらさを軽減させる薬などがあります。
分子標的療法
乳がん増殖にかかわっている受動体HER2タンパク質を集中的にねらい撃ちした治療法。
抗がん剤のように、正常な細胞を傷つけることなく、がん細胞を抑制することができると期待されています。この治療はHER2タンパク、あるいはHER2遺伝子を過剰に持っている乳がんにのみ効果が期待されます。
放射線療法
放射線にはがん細胞を死滅させる効果があり治療法。放射線照射を行った部分にだけ効果を発揮する局所療法です。手術療法や薬物療法と組み合わせて行うなど、広く行われる治療法です。
再発予防の目的のほか、手術がむずかしい場合は最初に放射線治療で小さくなれば手術も可能になります。骨や脳に転移した治療にも行われます。
副作用は正常な細胞も傷つけてしまうため、皮膚の炎症、倦怠感などの副作用がおきることがあります。